原酒・生酒・生貯蔵酒の違いを徹底整理― “火入れ”と“加水”で理解する日本酒の基本 ―

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日本酒売り場でよく目にする「原酒」「生酒」「生貯蔵酒」という言葉。
なんとなく「原酒は濃い」「生酒はフレッシュ」というイメージはあっても、正確な違いを説明できるでしょうか。

実はこの3つは、整理の軸を2つに絞るととてもシンプルになります。

  • 火入れをしているかどうか
  • 加水をしているかどうか

この2つを基準にすれば、混乱しがちな表示もすっきり理解できます。


原酒とは何か ― ポイントは「加水しない」

まず「原酒」から見ていきましょう。

原酒とは、搾ったあとに水で薄めていない日本酒のことです。

通常、日本酒は仕込みを終えて搾った直後、アルコール度数が17〜20%程度になることが多いです。
そのままだとやや強いため、多くの場合は仕上げに加水して15%前後に調整します。

しかし原酒は、この加水を行いません。

そのため、

  • アルコール度数が高め(17〜20%程度になりやすい)
  • 味わいが濃厚になりやすい
  • ボディ感がしっかり感じられやすい

という特徴が出やすくなります。

ここで重要なのは、原酒は火入れの有無とは関係ないという点です。

火入れをしている原酒もあれば、火入れをしていない生原酒もあります。
つまり原酒は「加水区分」であり、「火入れ区分」ではないのです。

ここを混同すると、理解が一気に曖昧になります。


生酒とは何か ― 一度も火入れをしない

次に「生酒」です。

生酒とは、一度も火入れをしていない日本酒のことです。

火入れとは、日本酒を約60〜65℃で加熱処理する工程で、主な目的は

  • 酵素の働きを止める
  • 微生物の活動を抑える
  • 品質を安定させる

ことにあります。

通常、日本酒は貯蔵前と出荷前の2回火入れを行います。
しかし生酒は、そのどちらも行いません。

その結果、

  • フレッシュで若々しい香り
  • 軽いガス感を感じることがある
  • シャープな印象になりやすい

といった特徴が出やすくなります。

ただし、火入れをしていない分、温度変化に弱く、要冷蔵が基本です。

生酒は「新鮮さ」と引き換えに「デリケートさ」を持つお酒といえるでしょう。


生貯蔵酒とは何か ― 貯蔵中は火入れしない

もっとも混乱しやすいのが「生貯蔵酒」です。

生貯蔵酒とは、貯蔵中は火入れをせず、出荷前に1回だけ火入れをする酒のことです。

通常の日本酒は

  • 1回目:貯蔵前
  • 2回目:出荷前

の2回火入れをします。

生貯蔵酒は、

  • 貯蔵前:火入れしない
  • 出荷前:火入れする

というスタイルです。

そのため、生酒ほどデリケートではないものの、通常酒よりはフレッシュ感が残りやすいという特徴があります。

味わいは、

  • 軽快
  • すっきり
  • 爽やか

といった方向に寄ることが多いです。


図解:火入れは「回数」と「タイミング」で見分ける

火入れは「する/しない」だけでなく、いつ行うかもポイントです。
下の図で、貯蔵前・出荷前のどこに火入れが入るかを確認してみてください。

※「生詰酒」は、貯蔵前に火入れをして、出荷前は火入れをしないタイプです。
生貯蔵酒と火入れのタイミングが逆なので、ここで一緒に押さえると混乱しにくくなります。


2つの軸で整理する(表で一発)

ここまでを、「火入れ」×「加水」の2軸で表にすると、関係が一気に見えるようになります。

加水あり加水なし(原酒)
火入れ2回通常酒火入れ原酒
火入れ1回生貯蔵酒生貯蔵原酒
火入れ0回生酒生原酒

つまり、

原酒=加水しない
生酒=火入れしない
生貯蔵酒=貯蔵中は火入れしない(出荷前に1回だけ)

という関係になります。

そして「生原酒」という言葉があるのは、
「火入れしない」かつ「加水しない」という両方を満たすからです。

言葉が組み合わさるのは、軸が違うからなのです。


味わいの傾向の違い

もちろん酒質は銘柄ごとに異なりますが、一般的な傾向としては次のようになります。

  • 原酒:濃厚で力強い
  • 生酒:フレッシュで爽快
  • 生貯蔵酒:軽やかでバランス型

ただし、これはあくまで傾向であり、造りや酵母、酒米、精米歩合によって印象は大きく変わります。

表示はあくまで「工程情報」です。
ただし、その工程が味わいの方向性をつくる重要な要素であることも事実です。


保存のポイント

表示を理解することは、保存方法を考える上でも重要です。

  • 生酒:必ず冷蔵(温度変化に弱い)
  • 生貯蔵酒:冷蔵推奨(少なくとも冷暗所、できれば冷蔵)
  • 原酒:比較的安定だが高温は避ける(できれば冷暗所〜冷蔵)

特に生酒は温度管理が品質に直結します。家庭での扱い方も含めて理解しておきたいポイントです。


なぜ混同しやすいのか

混乱の理由は、「原酒」と「生酒」が似たイメージを持っているからです。

どちらも「そのまま」「フレッシュ」という印象があります。
しかし実際には、

  • 原酒は「水を足さない」
  • 生酒は「火入れをしない」

というまったく別の基準で定義されています。

基準が違うからこそ、言葉が組み合わさるのです。

まとめ

ここまで、「原酒」「生酒」「生貯蔵酒」「生詰酒」という表示を整理してきました。

難しそうに見える言葉も、軸を2つに分ければとてもシンプルです。

  • 原酒=加水しない
  • 生酒=火入れしない
  • 生貯蔵酒=貯蔵中は火入れしない(出荷前に1回)
  • 生詰酒=貯蔵前に火入れ、出荷前はしない

表示は「味の名前」ではなく、「工程の情報」です。
しかし、その工程が味わいの方向性をつくっているのも事実です。

造りの違いを知ると、ラベルを見る目が変わります。
そして選び方も、ぐっと楽しくなります。


次のテーマは「保存と温度」

ここまでで「どう造られたか」は理解できました。

では次に大切なのは、どう扱うかです。

特に生酒はなぜ冷蔵が必要なのか。
火入れをしている酒はどこまで常温で大丈夫なのか。
そして温度によって味わいはどのように変化するのか。

日本酒は、保存と温度で表情が大きく変わります。

次のカテゴリでは、保存方法と温度帯(冷酒・常温・燗)の科学を整理していきます。

表示を理解した今だからこそ、保存と温度の話が立体的に見えてくるはずです。

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