「純米酒には精米歩合の規定がないらしい。」
日本酒を勉強していると、こんな話を耳にすることがあります。すると次の疑問が浮かびます。
- え?じゃあ何%でも純米酒なの?
- 磨かなくてもいいってこと?
- 精米歩合って結局、関係ないの?
結論から言うと、制度上は規定がありません。しかし、だからといって「精米歩合が関係ない」という意味ではありません。
この記事では、制度の背景と酒造りの実態の両面から、「純米酒と精米歩合」の関係を構造的に整理します。
まず確認:純米酒とは何か
純米酒とは、原料が米・米麹・水のみの日本酒です。醸造アルコールを添加しないことが最大の条件です。
前回の記事で解説したように、特定名称酒は「アルコール添加の有無」と「精米歩合」という2軸で整理できます。そのうち純米酒は、“添加なし側”に位置するカテゴリーです。
ここで重要なのは、純米酒の定義は「原料」に関するものであり、精米歩合そのものを直接条件にしていないという点です。
結論①:現在の制度では精米歩合の下限規定はない
現在の制度では、純米酒に精米歩合の下限は設けられていません。つまり、理論上は80%でも85%でも純米酒を名乗ることが可能です。
ただし、ここで歴史を少し振り返ると事情が見えてきます。
かつては純米酒にも「精米歩合70%以下」という条件がありました。しかし制度改正によりこの縛りは撤廃されました。その背景には、
- 蔵元の酒造りの多様化
- 低精米酒の再評価
- 画一的な基準からの脱却
といった流れがあります。
つまり制度としては、「磨き具合で純米酒を縛らない」方向に舵が切られたわけです。
では精米歩合は関係ないのか?
ここが本題です。
分類条件ではない=影響しないではありません。
精米歩合は、酒質設計において極めて重要なパラメータです。むしろ、純米酒こそ精米歩合の設計思想がはっきり現れるカテゴリーとも言えます。
精米歩合が味に与える影響
米の構造を思い出してみましょう。
- 外側:タンパク質・脂質・ミネラルが多い
- 中心部:デンプンが多い(心白を含む)
外側成分は発酵中にアミノ酸や雑味成分のもとになりやすく、内側はきれいなアルコール発酵を促します。
米を磨くと何が起こるか。
- 雑味要素が減る
- 香りがクリアになりやすい
- 発酵が安定しやすい
一方で、あえて磨かない選択をすると、
- 旨味が豊かになる
- コクや厚みが出る
- 個性が強く出る
つまり精米歩合は、「優劣」ではなく方向性を決める要素なのです。
純米酒が“自由なカテゴリー”である理由
純米酒は精米歩合に縛りがないため、設計の自由度が高いカテゴリーです。
たとえば、
- 精米歩合60%の純米酒
- 精米歩合70%の純米酒
- 精米歩合80%の低精米純米酒
これらはすべて純米酒です。しかし味わいは大きく異なります。
近年は、あえて低精米で米の個性を引き出す酒も増えています。これは制度の自由度があるからこそ可能になった表現です。
実際の市場ではどうか
理論上は何%でも可能ですが、実際には多くの純米酒が60〜70%台に集中しています。
なぜか。
- 味のバランスが取りやすい
- コストとの兼ね合いが良い
- 消費者のイメージと合致しやすい
50%台の純米酒も存在しますし、80%以上の低精米純米酒もありますが、主流は中間帯です。
つまり市場は、制度の自由度の中で“現実的な最適点”を選んでいるのです。
よくある誤解を整理する
誤解①:純米酒は70%以下でないといけない
→ 現在はその規定はありません。
誤解②:精米歩合が高い純米酒は質が低い
→ 一概に言えません。味設計の違いです。
誤解③:精米歩合は吟醸系だけの話
→ 純米酒でも重要な設計要素です。
制度と味を分けて考えることが大切
純米酒の理解で混乱が起こるのは、「制度の条件」と「味の傾向」を混ぜてしまうからです。
- 制度:アルコール添加がないこと
- 味設計:精米歩合が大きく関与
この2つを切り分けて考えると、整理が一気に進みます。
まとめ:純米酒の精米歩合は“関係ない”のではなく“自由”である
- 現在の制度では純米酒に精米歩合の下限規定はない
- しかし精米歩合は酒質設計に強く影響する
- 純米酒は磨きの自由度が高いカテゴリー
- だからこそ個性の幅が広い
純米酒を選ぶときは、「純米だからどうか」だけでなく、精米歩合の数字にも目を向けてみると、新しい発見があります。
次に読みたい:原酒・生酒・生貯蔵酒の違い
純米酒と精米歩合の関係が整理できたら、次に気になるのは「原酒」「生酒」「生貯蔵酒」といった表示ではないでしょうか。
これらは特定名称酒とは別の軸で、日本酒の加水の有無や火入れの回数に関わる分類です。名前は似ていますが、意味はまったく異なります。
制度の違いを構造で理解すると、ラベルの読み方がさらに立体的になります。
精米歩合の次は、火入れと加水というもう一つの設計軸へ。表示制度を一段深く読み解いてみましょう。


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