協会酵母とは何か?日本酒の香りを決める酵母の役割と701・1801の違い

原料

― 日本酒の香りを設計する存在 ―

日本酒の味や香りは「米の違い」で決まる、と思われがちです。確かに酒米や精米歩合は重要な要素です。しかし、同じ米・同じ精米歩合でも、まったく異なる香りや味わいの酒が生まれることがあります。

その違いを生み出す最大の要因のひとつが「酵母」です。

酵母は、日本酒造りにおいてアルコール発酵を担う微生物です。麹が米のでんぷんを糖へと分解し、その糖を酵母がアルコールと二酸化炭素へと変換する。この流れは、日本酒特有の「並行複発酵」という仕組みの中で同時に進行します。

しかし酵母の役割は、単にアルコールを生み出すことだけではありません。発酵の過程で、酵母はさまざまな副生成物を生み出します。その中には、日本酒の個性を決定づける「香気成分」が含まれます。

たとえば、吟醸酒に感じられる華やかなリンゴ様の香りは「カプロン酸エチル」、バナナ様の香りは「酢酸イソアミル」と呼ばれる成分によるものです。これらは主に酵母の代謝によって生成されます。

つまり酵母は、発酵担当であると同時に、「香りを設計する存在」でもあるのです。


協会酵母とは何か

日本酒の世界でよく耳にする「協会酵母」とは、日本醸造協会が頒布している清酒酵母を指します。

明治以降、日本酒の品質向上を目的として、優良な酵母を純粋分離し、全国の蔵元へ供給する仕組みが整えられました。これが協会酵母の始まりです。

協会酵母は「◯号」という番号で呼ばれます。6号、7号、9号などが古くから知られており、そこから派生した701号、901号、1801号といった番号も存在します。

この番号は単なる識別記号ではありません。それぞれの酵母には性質の違いがあります。

  • 発酵力の強さ
  • 生成する酸の量
  • 香気成分の生成傾向
  • 泡の立ち方

蔵元は、目指す酒質や設備条件に応じて酵母を選択します。同じ原料でも酵母が違えば、香りも印象も変わります。


泡との戦いと「泡なし酵母」

日本酒の発酵では、かつて「高泡(たかあわ)」が大きな問題でした。発酵が進むと大量の泡が発生し、タンクからあふれそうになることがありました。そのため、実際に仕込める量はタンク容量よりも少なくなっていました。

そこで開発されたのが「泡なし酵母」です。

代表例が701号や901号です。これらは高泡を形成しない性質を持ちます。その結果、同じ容量のタンクでも20〜30%ほど多く仕込むことが可能になりました。

これは単なる効率化ではありません。設備投資を増やさずに生産量を増やせるという意味で、酒造業にとって大きな技術革新でした。

重要なのは、「泡なし=品質が劣る」わけではないということです。泡の性質は発酵挙動の違いであり、酒質の優劣とは直接関係しません。


1801号と吟醸香

近年、特に吟醸系の酒造りで注目されるのが1801号酵母です。

この酵母は、吟醸香の主要成分であるカプロン酸エチルや酢酸イソアミルを高生産する性質を持つとされます。華やかでフルーティーな香りを表現しやすく、吟醸酒や大吟醸酒に用いられることが多い酵母です。

ただし、ここで重要なのは「酵母だけで味が決まるわけではない」という点です。

発酵温度が高ければ香りは抑えられることがありますし、麹の出来や原料米の処理、貯蔵条件によっても酒質は変わります。酵母は重要な設計要素ですが、それはあくまで酒質形成の一部です。


協会酵母の意義

協会酵母の最大の意義は「品質の安定」にあります。

野生酵母に頼ると、発酵の安定性が低下し、酒質がばらつく可能性があります。協会酵母は、純粋培養され、特性が明確な酵母です。そのため、再現性の高い酒造りが可能になります。

現代の日本酒が高品質かつ安定している背景には、この酵母供給システムの存在があります。番号で管理され、性質が明確に整理されているという点は、日本酒造りが「経験と勘」だけでなく、科学的管理へと進化してきた証でもあります。


検定で押さえておきたいポイント

協会酵母に関して、検定対策として整理しておきたい点は次の通りです。

  • 酵母は糖をアルコールとCO2に変える
  • 香気成分も生成する
  • 協会酵母は日本醸造協会が頒布
  • ◯号という番号で呼ばれる
  • 701/901は泡なし酵母
  • 1801は吟醸香生成能が高い

特に「泡なし酵母」と「1801号の特徴」は問われやすい論点です。


まとめ

協会酵母とは、清酒造りに用いられる頒布酵母であり、番号ごとに明確な性質の違いを持っています。

酵母は、アルコールを生み出す存在であると同時に、日本酒の香りを形づくる設計者でもあります。泡との戦いから生まれた泡なし酵母、吟醸香を高める1801号など、日本酒造りの進化は酵母の進化でもあります。

ラベルには書かれていないことが多い酵母。しかし一本の酒の背景には、選び抜かれた酵母の存在があります。

米を見る。精米歩合を見る。そして可能であれば、どの酵母を使っているのかにも目を向ける。その視点を持つだけで、日本酒は「飲み物」から「設計された作品」へと変わって見えてきます。


▶ 次に読む:代表的な酵母の違いを整理する

ここまで、協会酵母の役割と基本的な特徴を見てきました。

では実際に、701号・901号・1801号では何が違うのでしょうか。

香りの出方、酸の量、発酵力、そして酒質の印象。

代表的な三つの酵母を比較しながら、その個性を整理します。

▶ 協会701・901・1801の違いとは?

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