酒米について学んでいると、「心白」という言葉に何度も出会います。
一方で、こんな声もあります。
「心白は割れやすいから品質が悪いのでは?」
「白く濁っているのは未熟な証拠では?」
確かに、食用米の評価軸では、心白は必ずしも歓迎される特徴ではありません。
では、心白は本当に“欠陥”なのでしょうか。
今回は、心白を構造の視点から整理し、その合理性を考えてみます。
心白が「欠陥」と言われる理由
まず、なぜ心白が欠陥と見なされることがあるのかを整理します。
| 評価軸 | 食用米の基準 | 心白の評価 |
|---|---|---|
| 整粒率 | 高いほど良い | 割れやすさが懸念される |
| 外観均一性 | 透明で均一が望ましい | 白濁がマイナスに見える |
| 強度 | 物理的強度が重要 | やや低くなる傾向 |
つまり、「欠陥」とされるのは食用米という評価軸においてです。
心白部分はデンプンの密度が低く、構造がやや粗い領域です。そのため物理的な強度がやや低く、衝撃に対して割れやすい傾向があります。
精米工程では砕米(さいまい)が発生することがあり、砕米率が高いと歩留まりが悪くなります。食用米では外観や整粒率が重視されるため、心白の存在はマイナス要因になり得ます。
また、白く濁って見えるため、見た目の均一性という観点でも評価は分かれます。
つまり、「欠陥」とされるのは、食用米という評価軸においてです。
しかし酒造りでは評価が逆転する
ところが、酒造りの現場では事情が変わります。
日本酒造りでは、米を蒸し、麹菌を繁殖させ、酵素によってデンプンを糖へと分解します。その糖を酵母が利用してアルコールを生成します。
この並行複発酵の仕組みにおいて重要なのは、「麹菌が米の内部まで入り込めるかどうか」です。
心白部分はデンプンの配列がやや疎であるため、菌糸が侵入しやすく、酵素が内部まで作用しやすいという特性があります。
つまり、食用米では弱点になり得る構造が、酒造りでは機能として働くのです。
評価基準が変われば、意味も変わります。
構造的に見る心白
心白を理解するには、デンプン構造に目を向ける必要があります。
米のデンプンは、アミロースとアミロペクチンから構成されています。通常、これらは結晶性の高い構造を形成し、比較的密に詰まっています。
しかし心白部分では、デンプン粒の並びがやや不規則で、微細な空隙を多く含みます。この密度差によって光が散乱し、不透明に見えるのです。

重要なのは、ここに“穴”があるわけではないという点です。
心白は空洞ではなく、「低密度デンプン領域」と呼ぶほうが正確です。
この構造的差異が、吸水性や蒸し上がり、麹菌の侵入性に影響を与えます。
心白と砕米率の関係は単純ではない
心白が大きいと必ず割れやすい、という単純な話でもありません。
砕米率は、心白の大きさだけでなく、粒全体の構造バランスや外層の強度、精米条件など複数の要因に左右されます。
砕米率に影響する要因
| 要因 | 影響度 |
|---|---|
| 心白サイズ | 一要素にすぎない |
| 粒の大きさ | 大粒ほど安定 |
| 外層の強度 | 重要 |
| 精米条件 | 大きく影響 |
代表的な酒米である山田錦は大きな心白を持ちながらも、比較的安定しています。これは粒が大きく、全体の構造バランスが良いためです。
つまり、心白の存在そのものが欠陥なのではなく、全体設計とのバランスが重要なのです。
欠陥か、最適化か
ここで視点を変えてみます。
工業材料の世界では、「用途に対して最適かどうか」が評価基準になります。強度が低い素材でも、軽量性や加工性が求められる場面では優れた素材になります。
酒米も同じです。
食用米は食味や外観の完全性が重視されます。
酒米は醸造機能が重視されます。
評価軸が違えば、「欠陥」は「機能」に変わります。
心白は偶然の欠点ではなく、酒造りという目的に適応した構造的特徴です。
酒米は設計思想の違いを示している
酒米の育種は、単に大きな粒を作ることではありません。
心白の安定性、タンパク質量、砕米率、吸水挙動。
これらを総合的に調整し、醸造に適した特性を持たせています。
山田錦、五百万石、美山錦といった品種も、それぞれ異なる設計思想のもとに改良されてきました。
心白は、その設計思想を象徴する存在でもあります。
まとめ:評価は目的で決まる
心白は空洞ではありません。
デンプン構造の密度差によって生じる、機能的な低密度領域です。
食用米の評価軸では弱点になり得ますが、酒造りにおいては重要な役割を果たします。
欠陥かどうかは、絶対的なものではありません。
目的が何かによって決まります。
一粒の米の内部構造に目を向けると、日本酒がいかに合理的に設計された文化であるかが見えてきます。
心白は欠陥ではなく、日本酒という仕組みを支える構造的基盤なのです。
▶ 次に読む:発酵の主役は誰か
酒米の構造が整ったとしても、それだけでは日本酒は生まれません。
糖をアルコールへと変える存在――それが酵母です。
なかでも「協会酵母」は、日本酒の品質を安定させる上で大きな役割を果たしてきました。
酵母の違いは、香りや味わいにどう影響するのか。


コメント